【オノマトペ】「つるつる」「ずるずる」——麺をすする音のオノマトペはなぜ日本語にしかないのか

料理と言語

そばやラーメンをすする「ずるずる」という音。

実はこの音、世界の言語の中でもかなり珍しい存在だと知っていましたか?

「つるつる」と「ずるずる」、似ているようで実はまったく違う種類の言葉なんです。

🍜 今回のテーマ

麺をすする音のオノマトペ「ずるずる」「つるつる」が生まれた背景と、世界の食事作法との違いを言語学的に読み解く。

江戸の屋台から生まれた「音を立てて食べる」文化

そばを音を立ててすする習慣が広まったのは、江戸時代の屋台文化がきっかけだとされています。

18世紀初頭の享保年間、江戸の町には夜鷹そばと呼ばれる屋台が数多く立ち並びました。

当時のそばは今よりも茹でが早く、伸びやすかったため、客は熱いうちに一気にすすり込む必要がありました。

その勢いよくすする音が「威勢の良さ」や「美味しさへの反応」として職人や町人に好まれ、次第に江戸っ子の粋な食べ方として定着していったといわれています。

ぎおん語「ずるずる」とぎたい語「つるつる」の違い

この二つの言葉、実は文法的な分類がまったく異なります。

🔤 言語的視点

「ずるずる」は実際に聞こえる音を写した擬音語(ぎおん語)。一方「つるつる」は麺の滑らかな質感を表す擬態語(ぎたい語)で、音そのものではなく感覚を言語化したものです。

日本語は擬音語・擬態語をあわせて4500語以上持つといわれ、世界の言語の中でも群を抜いて多いことが言語学者の研究で指摘されています。

麺という一つの食べ物だけで、音と感触の両方を別々の言葉で表現できるのは、この語彙の豊かさゆえの現象です。

世界から見ると「音を立てて食べる」は非常識?

西欧では逆に、食事中の音は長らくマナー違反とされてきました。

1530年、オランダの人文学者エラスムスが著した子供向け作法書『少年礼儀作法論』には、すでに「音を立てて食べてはならない」という記述があります。

この作法観がヨーロッパの食卓文化の基礎となり、静かに食べることが上品さの象徴として広まっていきました。

同じ「麺をすする」という行為でも、文化によって評価が正反対になるのは、こうした歴史的な作法観の違いによるものです。

2013年、「ヌーハラ」論争が突きつけたもの

💡 裏話・豆知識

2013年頃、インターネット上で「ヌードルハラスメント(ヌーハラ)」という言葉が話題になりました。麺をすする音を不快に感じる人が一定数いると報じられ、日本人自身の間でも賛否が分かれる論争に発展しました。

この論争が興味深いのは、すする音の是非が世代や個人の感覚によっても揺れ動くという事実を浮き彫りにした点です。

「ずるずる」は江戸から続く伝統でありながら、令和の今も評価が固定されていない、生きた言葉なのです。

音を写す言葉と、感触を写す言葉が一つの食べ物に同居し、しかもその音の価値観が時代とともに揺れ続ける。

「つるつる」「ずるずる」というたった二つのオノマトペには、江戸の屋台文化から現代のSNS論争まで、日本語と食の関係史がぎゅっと詰まっています。

✅ まとめ

「ずるずる」は音を写す擬音語、「つるつる」は質感を写す擬態語。江戸の屋台文化で音を立てて食べる習慣が定着し、西欧の作法観とは対照的な文化を築いた。2013年の「ヌーハラ」論争が示す通り、その評価は今も日本語の中で揺れ動いている。

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