料理人1年目へ。ポイントガードの話をしてもいいですか。
バスケのポイントガードって、知っていますか?
コートの上で、ゴールに向かって走り込む味方をさばきながら、次の展開を2〜3手先まで読んで動くポジション。
シュートを決めるわけじゃない。華やかなダンクもない。
でも、ポイントガードがいないチームは機能しない。
「料理人1年目で、こんな視点が持てたら最高だろうな」
入って半年後、先輩に怒鳴られながら、私はそう思っていました。
怒鳴られている最中に思うって、なかなかの現実逃避なんですけど。
この記事では、私が1年目に死ぬほど悩んだ「段取り」について、実体験をもとに書いていきます。
完璧な1年目の話じゃないです。失敗して、怒鳴られて、なんとか這い上がった話です。
「手が空いたから動く」は、一番危ない
入りたてのころ、私は「手が空いたら動け」という言葉を信じていました。
教科書にも書いてあるし、先輩も口では言う。だから信じた。
でも実際のピーク時間帯は違いました。鍋を持って移動しようとした瞬間、料理長から——
「動くな! ちゃんと頭で考えて動け!」
え、動いたら怒られるの? まぁいいかと思い動き出すと——
「動くな!!」
と再び怒鳴られました。え……何が起きてるの……
そして厨房が忙しいピーク時の5分間、全くそこから動くことを許されませんでした。
5分経った頃に副料理長から——
「なんで突っ立ってんの?早く動け!!邪魔や!!」
(どっちなんだよ……)
いや、ほんとうにそう思いました。なんて理不尽な話だと。
料理長と副料理長と先輩と、全員言っていることが違う。
🏆 これ、新人あるある第1位に認定です。
結局このとき必要だったのは——
✅ 「頭の中で次の仕事が見えている状態で、必要なタイミングに動く」
それだけだったんです。
料理長は、しばらく前から私の動きを観察していたそうです。そしてこう感じていた、と——
「こいつ、明らかに先のことを見ていない。」
たとえばこんな場面。
- チャンバー(大型冷蔵庫)に取りに行かないといけない食材が5つあるのに、一個取ってきては戻り、また一個取ってきては戻る。
- 後で絶対使うから出しておいていい食材を、以前「出したらすぐ冷蔵庫にしまえ」と言われたことがあったからと、忙しいピークの最中に律儀にしまいに行く。
全部、「今」だけ見ている動きでした。当時の私には、「次の仕事」が見えていなかったんです。
その日の仕事終わり。片付けが落ち着いた頃、料理長が静かに近づいてきました。
「お前、なんで今日『動くな』って言ったか分かるか。」
「辛かったやろ? 動けなくなって、何を考えた?」
「頭しか使えへんから、必死でこの後の段取りとか、先輩の仕事とか、みんなの動きがちゃんと見えたやろ。」
「この忙しい時にこそ、冷静になって頭を使う。次の仕事、もっと先の段取りを考える。
」
「鳥になった気分で厨房の真上から見渡してみ。そしたら何をすべきか、ちゃんと見えてくるはずやぞ。
」
営業中は鬼のような人が、仕事終わりにはこうして落ち着いて話してくれる。それが、ありがたかった。
……ただ、これはかなり美化した記憶かもしれません。実際はもう少し、いや、だいぶ荒っぽかった気がします。
まあ、内容は同じだったので良しとしましょう。
A4用紙1枚が、頭の中を変えた
翌日から、ちょっと立ち止まって考えてみることを試してみました。でもそれだけだと、忙しくなると頭がすっ飛ぶ。
そこで先輩に教えてもらったのが、A4用紙1枚の4分割仕込み表です。ちょっとだけ焦る気持ちを落ち着かせながら、出勤して10分、じっくり考えて書くんです。
┌─────────────────┬─────────────────┐
│【左上】 │【右上】 │
│ 絶対やること │ 雑務 │
│ 今日中の仕込み │ 補充・清掃・確認 │
├─────────────────┼─────────────────┤
│【左下】 │【右下】 │
│ 時間がかかる仕込み│ フリースペース │
│ だし・煮込みなど │ 気づき・言われたこと│
└─────────────────┴─────────────────┘

💡 これを書くと、頭の中に「今日の地図」ができます。
地図があれば、次の仕事が見える。次が見えれば、ちょうどいいタイミングで動ける。
「手が空いたから動く」より「次が見えてるから、いいタイミングで動ける」——これが段取りの正体です。
後々これはどんどん改良して、時間を記入して分刻みの段取り表にしていくことで、圧倒的に仕事が早く終わるようになりました。
今日この紙に書いてある、これだけ終わらせると仕事が終わる。じゃあ全力でこのミッションを達成するぞ、という気持ちになってめちゃくちゃやる気が出ます。
朝の段取り表を書く時点では誰よりもスロースタートで「こいつ、いつになったら仕事始めるの……」と周りには思われますが、誰よりも効率よく動け、いつの間にか仕事が終わって余裕をぶっこけます。
ここで少し脱線していいですか。
この段取り表、最初は「面倒くさいな」と思っていたんです。書くより先に動いた方が早いんじゃないか、と。
でもこれ、スポーツの世界で言う「イメージトレーニング」と同じことだったんだと、後から気づきました。
一流のアスリートって、試合前に頭の中でプレーを何度もなぞりますよね。あれは「妄想」じゃなくて「準備」なんです。
A4の紙に書く10分も、同じです。体より先に、頭を動かしておく。
🔑 「考えてから動く」は遅いんじゃなくて、いちばん速い動き方なんです。
段取りがうまくなると、何が変わるか
正直に言います。段取りを覚えてから、厨房での「怒鳴られ方」が変わりました。
❌ 以前
「なにやってんだ!」
感情系の怒鳴られ方
✅ 段取りを意識してから
「そこはこうしろ!」
技術系の指摘
怒鳴られてはいるんですが、これって実は大きな違いで。
「なにやってんだ」は「お前の存在がおかしい」という意味。
「そこはこうしろ」は「お前を育てようとしている」という意味なんです。
叱られ方が変わると、自分の立場が変わった実感がありました。
あと、もう一つ変わったことがあって。先輩が話しかけてくれる量が増えた。
段取りができていない新人には、先輩は「指示」しか出しません。余裕がないから。
でも段取りができてくると、先輩に「少し余白」が生まれる。その余白の中に、技術の話とか、料理の考え方とか、本当に大事なことが入ってくるんです。
💡 段取りって、仕事を速くするためだけじゃなくて、先輩から学べる量を増やすための技術でもあると、今は思っています。
まとめ——鳥の目で厨房を見る
料理長が言っていた言葉を、今でも思い出します。
「鳥になった気分で厨房の真上から見渡したら
何をすべきか全て見えてくる。」
1年目のうちは、どうしても「今」しか見えない。目の前の仕込みをこなすだけで精いっぱいで、次のことなんて考える余裕がない。
でも、その「余裕」は待っていても来ない。作るんです。
10分かけて紙に書くことで。
才能がなかったわけじゃない。
地図がなかっただけ。
地図は、作れます。
✅ 今日から一つだけやってみてほしいこと
出勤したら、動く前にA4用紙を4分割して、今日やることを全部書き出す。
それだけでいいです。
うまく書けなくていい。全部埋まらなくていい。
「書こうとする10分」が、鳥の目を少しだけ手に入れる時間になります。
次回は「手の早い人は何を気にしているか」について書きます。


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