今年もそろそろ土用の丑の日が近づいてきた。
スーパーの店頭には蒲焼きのパックが山積みになり、「本日、土用の丑の日」というポップがどこからともなく現れる。
でも、なぜ「丑の日」に「うなぎ」を食べることになっているのか、ちゃんと説明できる人は意外と少ない。
実はこの組み合わせ、うなぎの栄養がどうとか暦の巡り合わせがどうとかいう話より先に、売れなくて困っていたうなぎ屋の宣伝から始まったという説が有力だ。日本で一番有名な販促キャンペーンと言ってもいいかもしれない。
今日はこの「一枚の張り紙」が夏の風物詩になるまでの経緯を掘り下げていく。
📌 この記事でわかること
- うなぎ屋が夏に売れなかった本当の理由
- 「本日、土用の丑の日」の張り紙が生まれた経緯
- 発案者として名前が挙がる人物とその真偽
- 「丑の日」に「う」のつく物を食べる風習の背景
うなぎの「旬」は、実は夏じゃない
天然のうなぎは、産卵に備えて栄養を蓄える秋から冬にかけてが旬で、脂の乗りが一番いい。
逆に夏場は産卵期を控えて体力を使うため脂が抜け、味が落ちてしまう。
つまり江戸時代のうなぎ屋にとって夏は、一番おいしくない時期に、一番暑くて食欲が落ちる客を相手にしないといけない、二重に厳しい季節だった。冷蔵設備もない時代、脂の抜けたうなぎを蒸し暑い店先で焼いても、客が寄りつくはずがない。
✅ ポイント
今は養殖技術のおかげで一年中脂の乗ったうなぎが食べられるが、江戸時代は「夏はうなぎの閑散期」というのが業界の共通認識だった。
閑古鳥が鳴くうなぎ屋の相談
売れない夏を何とかしたい、あるうなぎ屋の店主が知り合いに相談を持ちかけた——という筋書きで語られるのが、この逸話の定番パターンだ。
相談を受けた人物は、うなぎの味そのものではなく「食べる理由」を客に与えるという発想の転換で応えたとされる。
味を変える、値段を下げる、量を増やす——普通ならこうした対症療法に走りたくなる場面で、レシピには一切手をつけずに「意味づけ」だけを変えたのがこの逸話の肝だ。商品はそのままに、客の頭の中にある「今日食べる理由」だけを新しく作り出したことになる。
🕵️ 業界の裏側
店先に「本日、土用の丑の日」と書いた紙を貼り出しただけ、というのがこの逸話の面白いところ。
味やレシピを変えたわけではなく、「今日は食べる日ですよ」という意味づけを売り場に足しただけで客足が変わったとされる。
発案者として名前が挙がる、あの人物
この張り紙のアイデアを出した人物として広く知られているのが、江戸時代の学者・発明家として名高い平賀源内だ。
エレキテルの復元、日本初のコピー機とも言われる「発火装置」の研究、さらには本草学者・戯作者としての顔まで持つ、まさにマルチな才人である。
そんな人物がうなぎ屋の販促にも一枚噛んでいたというのは、いかにも語り継ぎたくなるエピソードである。学者が広告コピーを考えたというのは、現代でいえば著名な研究者が中小企業のキャッチコピーを無償で書いてやったようなものだ。
🌀 都市伝説チェック
平賀源内が発案者だったという話は江戸後期の随筆などに見られるが、同時代の一次史料で確定した記録があるわけではない。
「有力な説の一つ」であって、史実として完全に証明されているわけではない点は覚えておきたい。
なぜ「丑の日」なのか
背景には、土用の丑の日に「う」のつく物を食べると夏バテしないという民間信仰があったことも見逃せない。
うなぎはその語呂合わせと、実際に栄養価が高いという実態の両方が噛み合ったことで、キャッチコピーとしての説得力を持った。
そもそも「土用」は年に4回、季節の変わり目ごとにやってくる暦の区切りで、夏だけのものではない。
そこに十二支を割り当てた「丑の日」も、年に何度も巡ってくるごくありふれた日でしかなかった。数ある土用の丑の日のうち、夏の1回だけが特別扱いされるようになったのは、それだけこの張り紙のインパクトが強烈だったという証拠でもある。
💭 そういえば確かに
「う」のつく食べ物といえば、梅干し・瓜・うどんなども土用の丑の日の縁起物として今でも語られる。
うなぎだけが突出して有名になったのは、この張り紙エピソードのインパクトが大きかったからかもしれない。
一枚の張り紙が、夏の風物詩になるまで
この販促が評判を呼び、他のうなぎ屋もこぞって真似するようになったことで、「土用の丑の日にはうなぎ」という習慣は江戸中に広がっていったとされる。
一軒の閑古鳥対策が、業界全体の年中行事にまで格上げされたことになる。
今では養殖技術の発展で一年中おいしいうなぎが食べられるようになったのに、習慣としての「丑の日」だけが今もしっかり残っているのは、なんとも面白い話だ。
キャンペーンの「理由」を生んだ最初の状況(夏の味落ち)はとうに解消されているのに、その日にうなぎを食べるという「行動」だけが独り歩きして続いている。
✅ ポイント
味の良し悪しよりも「今日は特別な日」という物語のほうが、人の行動を動かす力を持つことがある。
これは現代のマーケティングにもそのまま通じる発想だ。
まとめ
📋 この記事のまとめ
- ✅ 天然うなぎの旬は秋冬で、夏は味が落ちる
- ✅ 江戸時代、夏のうなぎ屋は客足に困っていた
- ✅ 「本日、土用の丑の日」という張り紙が起爆剤になった
- ✅ 発案者は平賀源内という説が有名だが、史料的な確証はない
- ✅ 土用の丑の日は年に何度もあるのに、夏の1回だけが定着した
今年の丑の日、うなぎを頬張りながら「これ、江戸時代のバズマーケティングなんだよね」とひとこと添えれば、いつもの晩ごはんがちょっとした雑学タイムに変わるはずだ。



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