お正月のおせちに入っている「栗きんとん」。
和菓子屋の店先に並ぶ「栗きんとん」。
同じ名前なのに、この二つはまったく別の食べ物だということをご存知だろうか。
「金団」と書く、おせちの黄金色の意味
おせちに入っている栗きんとんは、漢字で書くと「栗金団」となる。
「金団」は「金の団子」あるいは「金の布団」を意味する言葉だ。
裏ごししたさつまいもの餡を、甘く煮た栗にたっぷりまとわせる。
その黄金色の見た目を、金塊や小判に見立てたのが名前の由来とされる。
商売繁盛や金運をもたらす縁起物として、正月のおせちに定着した。
岐阜の和菓子は「栗金飩」——同じ読みで違う漢字
一方、岐阜県中津川市・恵那市周辺で作られる郷土菓子にも「栗きんとん」がある。
こちらは漢字で書くと「栗金飩」。「団」ではなく「飩」の字を使う。
作り方もまったく違う。ゆでた栗に砂糖を加え、栗の実の形を活かしたまま茶巾(布巾)で絞って形を整えて仕上げる。
おせちの栗きんとんのようなとろりとした餡はなく、ほろりと口でほどける食感が持ち味だ。
恵那市周辺は「恵那栗」と呼ばれる上質な栗の産地で、この地域が発祥と伝えられている。
室町時代の文献に見える、もう一つの「栗金団」
ややこしいことに、話はこれで終わらない。
「栗金団」という文字自体は、室町時代(14世紀後半〜16世紀ごろ)の文献にすでに登場している。
ただしこれは栗餡を丸めた和菓子のようなもので、今のおせちの栗きんとんとは似ても似つかないものだったと考えられている。
むしろ、岐阜の「栗金飩」に近い姿だったという。
今日のような、栗を濃厚な餡で和えたおせちの栗きんとんが生まれたのは明治時代(1868年以降)ごろとされる。
つまり「きんとん」という名前は、時代とともに指すものが入れ替わりながら、二つの姿で今日まで受け継がれてきたことになる。
🔤 言語的視点
同じ「きんとん」という読みでも、漢字は「金団」と「金飩」で分かれる。「飩」は今のうどん(饂飩)にも使われる字で、もともと小麦粉をこねた団子のような食べ物を指した。読みが同じでも漢字が違えば別の言葉になる、という日本語ならではのねじれがここにも表れている。
栗が縁起物になったのは「勝ち栗」の語呂から
そもそも、なぜ栗が正月の縁起物に選ばれたのか。背景には「勝ち栗」という言葉がある。
栗を乾燥させて臼で搗き、殻と渋皮を除いた「搗ち栗(かちぐり)」が、武士が力を持った武家社会で「勝ち」に通じる語呂から縁起物とされてきた。
戦の前に食べて勝機を祈る、という風習も伝わっている。
その栗を、黄金色の餡でくるんで「金団」と名付けたのだから、正月にこれほどふさわしい一品もない。
おせちの折箱の隅にある栗きんとんと、和菓子屋のガラスケースに並ぶ栗きんとん。
同じ名前を名乗る二つの料理には、室町から明治、そして地方の風土まで、それぞれ違う時間が流れている。
🌰 まとめ
「栗きんとん」は一つの名前ではなく、二つの歴史が同じ読みに重なってできた言葉だった。おせちの「金団」は黄金の縁起物として、岐阜の「金飩」は栗そのものの風味を活かした郷土菓子として、それぞれ別の道を歩んできた。



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