【当て字・難読】「南瓜」「西瓜」「胡瓜」——地名や言葉が漢字に閉じ込められた瓜の一族

料理と言語

「南瓜」「西瓜」「胡瓜」。

この三つの瓜、実は名前の一文字目「南」「西」「胡」がすべて、方角や地名を表す漢字だ。

かぼちゃは南から来た瓜、すいかは西から来た瓜、きゅうりは「胡」の地から来た瓜。

同じ「瓜」の字を背負いながら、三つはまったく違う道のりを経て、日本語に漢字として定着した。

「南瓜」は”カンボジアのうり”を意味する漢字だった

かぼちゃが日本に伝わったのは天文てんぶん10年(1541年)ごろとされる。

豊後国ぶんごのくに(今の大分県)の港にポルトガル船が漂着し、当地を治めていたキリシタン大名・大友宗麟おおともそうりんにかぼちゃが献上されたのが、日本での最初の記録とされている。

このかぼちゃがシャム(現在のタイ)の東にある「カンボチャ国」、つまりカンボジアの産物だったことから、「カボチャ瓜」と呼ばれるようになった。

のちに「瓜」が省略されて「カボチャ」という呼び名だけが残った。

一方の漢字表記「南瓜」は、日本語の「カボチャ」という音とは別のルートで入ってきている。

これは中国語で「南蛮なんばん(当時ポルトガルなど南方から来た国を指した言葉)から渡来したウリ」を意味する表記をそのまま輸入したもので、中国でも今なお「南瓜(ナングァ)」と呼ばれる。

つまり「南瓜」という字は、日本が独自に考えた当て字ではなく、大陸から漢字表記ごと運ばれてきたものだった。

豆知識

かぼちゃには「南京(なんきん)」「唐茄子(とうなす)」という別名もある。どちらも「よその国から来たもの」を示す言葉で、当時の日本人が外来の作物を呼ぶときの発想の型がうかがえる。

「西瓜」の「西」は、日本ではなく中国から見た方角

すいかの原産地はアフリカだが、そこから中国へ渡ったのは10世紀ごろ、ウイグル経由だったと言われる。

シルクロードを通って中央アジア方面から伝わったため、中国の人々はこの瓜を「西から来た瓜」=「西瓜」と名付けた。

この「西」は、あくまで中国を基準にした方角だ。

日本から見れば中国は西寄りの方角にあるが、すいかの「西」はさらにその先、中国よりも西の中央アジア方面を指している。

日本語の読み「すいか」も、中国語の発音「シーグァ(xīguā)」を耳で聞いてそのまま音写(発音をそのまま別の文字で書き写すこと)したものとされる。

日本にいつ伝わったかは実ははっきりしない。

平安時代の絵巻「鳥獣戯画ちょうじゅうぎが」(動物を擬人化して描いた有名な絵巻物)にすいからしき果物を持つウサギが描かれていることから、すでにこの時代に伝来していたのではという説がある一方、江戸初期の史料『和漢三才図会わかんさんさいずえ』は、慶安年間けいあんねんかん(1648〜52年)に隠元禅師いんげんぜんじ(中国から渡来した禅僧)が中国から持ち帰ったとする説を採っている。

どちらも確証があるわけではなく、伝来時期は今も定まっていない。

言語的視点

「南瓜」も「西瓜」も、日本語の音を漢字に当てはめた当て字ではない。中国語の表記と方角感覚をまるごと輸入した字で、いわば”意味の直輸入”だ。日本人が独自に考えた当て字(例えば「心太」と書いて「ところてん」と読ませるような例)とは、成り立ちの種類が違う。

「胡瓜」の「胡」は、古代中国が異民族を呼んだ言葉

きゅうりの原産地はインド北部、ヒマラヤ山麓のあたりとされる。

そこから中国へ伝わり、シルクロードを経由してもたらされた作物として「胡瓜」の字が当てられた。

この「胡」という字は、もともと中国が北方・西方の異民族を指すのに使った言葉だ。

しんかんの時代には主に匈奴きょうどを指し、唐の時代になるとシルクロード交易で活躍したソグド人など、西方の人々を指すようになった。

「胡」の字がつく食べ物は、きゅうりだけではない。

胡椒こしょう胡麻ごま胡弓こきゅう(弓で弦をこすって鳴らす、三味線に似た日本の伝統弦楽器。もとは中国の胡琴こきんという擦弦楽器に由来する)なども同じ発想の命名で、「異民族の地から来たもの」という当時の中国人の認識がそのまま漢字に刻まれている。

江戸時代の武士はきゅうりを敬遠していた、という話が今に伝わっている。

輪切りにした断面が、将軍家しょうぐんけの権威を示す徳川家とくがわけの家紋「三つ葉葵みつばあおい」に似ていることから、きゅうりを切ることを「畏れ多い」とする言い伝えがあったとされる。

これは史料で厳密に裏付けられた話というより、江戸の逸話として広く語り継がれてきたものだ。

当時のきゅうりは品種改良が進んでおらず苦みが強かったとも言われ、家紋への遠慮と味の両方が敬遠の理由だった可能性がある。

三つの瓜が歩いてきた、まったく違う三つの道

「南瓜」はカンボジアという国名から、「西瓜」は中国から見た方角から、「胡瓜」は古代中国の異民族呼称から生まれた字だ。

伝わった時代もばらばらで、南瓜は16世紀の南蛮貿易なんばんぼうえき、西瓜は10世紀前後のシルクロード、胡瓜はさらに古い時代の中国経由とされる。

それぞれ別の時代、別のルートをたどってきた三つの作物が、たまたま同じ「瓜」という字に落ち着いた。

普段何気なく書いている漢字一文字に、遠い国の名前と、貿易の記憶が閉じ込められている。

まとめ

南瓜=カンボジア由来、西瓜=中国から見た西方由来、胡瓜=古代中国の異民族呼称由来。同じ「瓜」でも、一文字目にはそれぞれ違う時代と土地の記憶が刻まれている。

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