パクチーが苦手なのは、遺伝子に原因があるらしい

1年目が知らなかった話

「パクチーは石鹸の味がする」——そう言われて、思わず頷いてしまったことはないだろうか。
あの独特の香りを、爽やかな柑橘みたいだと言う人がいる一方で、洗剤そのものだ、虫みたいな匂いがすると言う人もいる。
好き嫌いがここまではっきり分かれる食材も珍しい。

実はこの感じ方の違い、単なる好みの問題ではないらしい。
2012年に行われたある大規模な遺伝子調査によって、パクチーの好き嫌いは遺伝子でかなりの部分が説明できることがわかっている。
「慣れれば克服できる」とよく言われるが、それは本当なのか。
嗅覚受容体の遺伝子の話から、意外な世界地図の話まで、パクチーをめぐる「へえ」を集めてみた。

📌 この記事でわかること

  • パクチーの好き嫌いを分ける遺伝子の正体
  • 「石鹸っぽい」と感じる香り成分の正体
  • 遺伝子だけでは説明できない「慣れ」の効果
  • 世界の地域でパクチー好き嫌いの割合が違う理由

「石鹸っぽい」の正体は、カメムシと同じ香り成分だった

パクチー(コリアンダー)の葉には、(E)-2-デセナールやドデカナールといったアルデヒド(香りのもとになる化学物質の総称)が多く含まれている。
実はこのアルデヒド、洗剤や石鹸の香料にも使われる成分と構造がよく似ている。
さらに厄介なことに、カメムシが外敵から身を守るために出す防御液(いわゆる「カメムシ臭」のもと)にも、同じ系統のアルデヒドが含まれていることが知られている。
つまり「石鹸みたい」「カメムシ臭い」という表現は、化学的にはかなり的を射た比喩なのだ。

💭 そういえば確かに

パクチー嫌いな人が「カメムシみたいな匂い」と表現するのは、海外の掲示板でも定番の言い方らしい。英語圏でもcilantroの香りを”soapy”(石鹸っぽい)”buggy”(虫っぽい)と呼ぶことが多い。

2012年、30万人規模の遺伝子解析で見つかった「OR6A2」

遺伝子検査サービスの23andMe(唾液を送るだけで体質や祖先のルーツを調べられるアメリカのサービス)が2012年に発表した研究では、パクチーを石鹸のように感じるかどうかと相関する(統計的に関連が見られる)遺伝子の場所を、大規模なデータから特定した。
該当するのはOR6A2という、嗅覚受容体(匂いを感知するセンサーのような役割を持つタンパク質)を作る遺伝子のすぐ近くにあるDNA配列だった。
OR6A2は、まさにアルデヒド系の香りを強く検知するタイプの受容体で、この遺伝子のタイプを持つ人ほど、パクチーの香りを不快な「石鹸臭」として感じ取りやすいという。
好みの違いのすべてがこれで説明できるわけではないが、香りの感じ方に遺伝子ひとつが関わっているというのは、かなり衝撃的な発見だった。

双子の研究が教えてくれた「遺伝だけでは決まらない」ということ

アメリカの嗅覚・味覚専門の研究機関、モネル化学感覚センターが行った双子を対象にした調査でも、興味深い結果が出ている。
一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)は二卵性双生児(遺伝子の一致度が普通の兄弟姉妹程度)に比べて、パクチーの好みが一致する割合が明らかに高かった。
ここまでは遺伝子の影響を裏付ける結果と言える。
ただし双子でも意見が分かれるケースは一定数あり、遺伝子だけで100パーセント説明がつくわけではないこともわかっている。

🌀 都市伝説チェック

「パクチー嫌いは慣れれば治る」は都市伝説か?実際には一部当たっている。繰り返し食べることでパクチー嫌いを克服したという報告例は複数あり、脳が香りの情報を「危険」から「食べ物」として再学習することが理由と考えられている。ただしOR6A2の感受性が特に強いタイプの人は、何度食べても苦手なままということも珍しくない。

なぜ東南アジアや中南米は「パクチー天国」なのか

遺伝子の分布には、地域や民族による偏りがあることもわかっている。
23andMeの調査によれば、パクチーを石鹸のように感じる人の割合は、東アジア系で約2割、ヨーロッパ系で1割台後半なのに対し、南アジア系や中東系、中南米系では1割に満たないという結果が出た。
興味深いのは、この遺伝子の分布が低い地域ほど、もともとパクチーを大量に使う食文化が根付いていることだ。
タイ、ベトナム、メキシコ、インドといった国々では、パクチーが薬味どころか主役級の食材として扱われている。
遺伝的にパクチーを嫌いになりにくい集団が、結果としてパクチーを多用する食文化を育てたのか、それとも幼い頃からの食習慣が遺伝子の影響を上書きしているのか——因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)はまだはっきりしていない。

🕵️ 業界の裏側

プロの料理人の中には、パクチーが苦手な客のためにみじん切りにしたり、すりこぎで軽く潰してから使う人もいる。細胞を壊して調理することで、酵素の働きによってアルデヒドの一部が分解され、香りが多少マイルドになるとされているためだ。完全に無臭にはならないが、「ひとつまみなら食べられる」人を増やす、ちょっとした厨房の知恵だ。

パクチー談義で使えるひとネタ

今度パクチーが話題になったら、「あれ実は遺伝子のせいらしいよ」と一言添えてみてほしい。
好き嫌いの話が、急に生物学の話に変わって、会食の場が少し盛り上がるはずだ。

まとめ:パクチー嫌いは遺伝子のせい、で片付けられない

📋 この記事のまとめ

  • ✅ パクチーの「石鹸っぽい」香りの正体はアルデヒドという成分
  • ✅ 好き嫌いにはOR6A2という嗅覚遺伝子が関わっている
  • ✅ 双子研究でも遺伝の影響は裏付けられている
  • ✅ 「慣れ」で克服できる人もいるが、遺伝的に難しい人もいる
  • ✅ 遺伝子分布と食文化の偏りには興味深い相関がある

単なる好き嫌いだと思っていたパクチー論争が、実は嗅覚受容体の遺伝子にまでさかのぼる話だと知ると、次に食卓でパクチーが話題になったときの一言のネタが、ひとつ増えるはずだ。

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