「おみおつけ」というみそ汁の呼び方がある。
漢字で書くと「御御御付け」——敬語の「御」の字が3つも並ぶ。
日本語史上もっとも丁寧な料理名だ、と紹介されることが多い。
だが実は、この「三重敬語」説には根拠が乏しい。
🍳 今回のテーマ
「おみおつけ」に隠された室町の宮中女性の言葉遣いと、国語辞典でも見解が分かれる語源の謎を追う。
「御」が3つ並ぶ、その見た目のインパクト
「おみおつけ」を漢字にすると「御御御付け」となる。
「御」の字が3つ連続する、日本語としてはかなり珍しい表記だ。
この見た目のインパクトから「敬語を3回重ねた丁寧すぎる言葉」として紹介されることが多い。
ただし複数の国語辞典を調べると、この理解はやや不正確だとわかる。
土台は「おつけ」——室町の宮中女性が生んだ言葉
話は室町時代初期までさかのぼる。
当時、御所(天皇の住まい)や仙洞御所(譲位した上皇の住まい)に仕えた女官たちは、食べ物などを直接的に言うのを「はしたない」として避け、独自の言い換え言葉を使っていた。
これが女房詞(にょうぼうことば)で、食べ物に関する言葉だけで79語が記録されている。
「おにぎり」「おかず」「おでん」「おから」なども、同じ女房詞の系統だとされる。
🗣 言語的視点
みそ汁については、動詞「付ける」からできた名詞「つけ」に「お」をつけた「おつけ」が、この女房詞のひとつだった。飯・汁・菜を膳に並べる正式な食事「本膳料理」で、ご飯に付けて出す汁だったことが名前の由来とされる。
「おみ」の正体をめぐる、辞書も割れる論争
問題は「おつけ」の前につく「おみ」の部分だ。
これには大きく2つの説がある。
ひとつは、「おつけ」をさらに丁寧にするため「御御(おみ)」という接頭語が重ねてついたという説。
同じ「御御」を持つ言葉に、足を指す「御御足(おみあし)」や、酒を指す「御御酒(おみき)」(のちに「御神酒」の字が当てられた)があるとされる。
もうひとつは、みそを丁寧に言った「御味(おみ)」に「おつけ」がついたという説だ。
国立国会図書館のレファレンス協同データベース(全国の図書館が調べ物の回答事例を共有する公的な記録集)が2019年に公開した、福岡市総合図書館による回答記録では、複数の語源辞典を根拠にこの「お味+お付け」説を採用している。
そのうえで「御御御+付け」という3文字への分解を、後から広まった語源俗解——つまり民間で作られた誤った解釈だとしている。
「御」が3つに見えるのは、後から漢字を当てはめた結果にすぎない可能性が高いというわけだ。
なぜ今も「江戸っ子言葉」として残っているのか
女房詞は室町時代の宮中で生まれたあと、将軍家や公家、町家の裕福な女性へと伝わっていった。
江戸時代後期には、庶民の暮らしにも広がっていく。
「おみおつけ」もこの過程で東日本、特に江戸の町人の間に定着したと言われる。
一方、関西など西日本では「みそ汁」という言い方が主流のまま残った。
同じ料理でも呼び方に東西差が生まれた背景には、女房詞が広まった経路の違いがあるとされる。
現在では古い言い方とされ日常的に使う人は少ないが、東日本の年配層を中心に今も耳にすることがある。
🍲 まとめ
「おみおつけ」は敬語を3つ重ねた特別な言葉、というのは広く知られた俗説に近い。実際には、室町の宮中女性が使った女房詞「おつけ」に、丁寧な接頭語「おみ」が重なってできた言葉というのが、辞書が示す由来だ。



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