継母と姉たちが舞踏会へ出かけたあと、ひとり家に残されたシンデレラ。
泣いている彼女の前に、名付け親の妖精があらわれます。
妖精がまず頼んだのは、ドレスでも靴でもなく、畑のかぼちゃでした。
“Her godmother scooped out all the inside of it, having left nothing but the rind”
【訳】名付け親は、かぼちゃの中身をすっかりくり抜いて、皮だけを残した。
── シャルル・ペロー『サンドリヨン』(アンドリュー・ラング英訳『あおいろの童話集』、1889年)より(訳は筆者)
……妖精、まず下ごしらえから入っています。
中身を全部くり抜いて、皮だけにしてから、杖でひと振り。
かぼちゃは金色に輝く立派な馬車に変わりました。
ただし「真夜中の12時を1秒でも過ぎたら、馬車はかぼちゃに戻る」という約束つきで。
ちなみに、かぼちゃの馬車が出てくるのは、1697年にフランスで出版されたペロー版のシンデレラです。
グリム童話版には魔法使いもかぼちゃも出てこず、ドレスは鳩が届けてくれます。
私たちがよく知るシンデレラは、ペロー版がもとになっています。
というわけで今回は、魔法を使わずに、かぼちゃの馬車を本気で作ってみます。
※判定スタンプ(採用・一部採用・試作・没)の見方は、シリーズのトップページにまとめています。
「かぼちゃ」という名前は、ポルトガル人が「カンボジアから来た野菜」として日本に持ちこんだことに由来すると言われています。
漢字の「南瓜」も、南の国から来た瓜という意味です。
第1の壁:人が乗れる大きさのかぼちゃはあるのか
まずは大きさです。
シンデレラが乗りこむには、少なくとも人がひとり座れるくらいの大きさが必要です。
結論から言うと、あります。
世界には、巨大なかぼちゃの重さを競う大会があります。
2025年10月、イギリスの双子の兄弟が育てたかぼちゃが、重さ1,278.8kg、周囲約6.5mを記録して、ギネス世界記録に認定されました。
1,278.8kgは、軽自動車1台より重いくらいです。
周囲6.5mということは、直径にするとざっくり2mほど。
大人がしゃがめば、中にすっぽり入れる大きさです。
育てた本人が、自分のかぼちゃを彫る
巨大かぼちゃは、ハロウィンのジャック・オー・ランタンにもなります。
2022年にはアメリカ・ミネソタ州で、全米記録級のかぼちゃを育てた農家のかぼちゃを彫刻家が彫り上げ、約1,161kgの「世界一重いジャック・オー・ランタン」としてギネス記録に認定されました。
育てるのに数か月、彫るのも一大事業。
人が入れる大きさのかぼちゃは、もう空想ではありません。
巨大かぼちゃは、成長がいちばん速い時期には1日に20kg以上も大きくなることがあるそうです。
朝と夕方で見た目が変わるレベル。
毎日畑を見に行く育て主の気持ちがよくわかります。
大きさルート
人が乗れる大きさのかぼちゃ
世界記録は1,278.8kg。大人がしゃがんで入れるサイズは実在する
第2の壁:かぼちゃを「馬車」にするには
大きさはクリアしました。
次は、それを走らせる番です。
水の上なら、もう走っている
実はアメリカには、巨大かぼちゃをくり抜いて舟にし、湖でレースをするお祭りがあります。
たとえばメイン州のレースでは、200〜300kgほどのかぼちゃをくり抜いて、人が中にひざをついて乗り、オールでこいだり、小さなエンジンをつけたりして競います。
ただし、こぎ出したとたんに水が入りこんでくるので、沈む前にゴールできるかの勝負でもあるそうです。
かぼちゃは、乗り物として「一応使える」ことは証明されています。
陸の上の馬車にするには
では、シンデレラのように道路を走る馬車にするにはどうするか。
必要なものを並べてみます。
- 車輪と車軸:かぼちゃの底に直接つけると、重さで皮が割れる。かぼちゃの下に台車(シャーシ)を組んで、その上に載せるしかない
- 馬とつなぐ棒(ながえ):引っぱる力は大きいので、かぼちゃの皮には取りつけられない。台車につなぐ
- 座席とドア:皮を切り抜いてドアにすると、そこから強度が落ちる。内側に枠が必要
つまり、重さも引く力も、全部「台車」が受け持つことになります。
かぼちゃは、ほぼ飾りのカバーです。
実際にアメリカで作られた「かぼちゃの馬車」を調べてみると、中身は鉄の骨組みにガラス繊維を貼ったもので、車輪には自動車の足回りを流用していました。
見た目はかぼちゃ、中身は自動車。
現実のかぼちゃの馬車は、だいたいこの作りです。
台車なしで、かぼちゃごと転がして運ぶ。
丸いので、確かによく転がります。
ただし中に乗っているシンデレラも一緒に回転するので、お城に着くころには、ドレスより先に本人がもちません。
採用
馬車にするルート
本物のかぼちゃで走る馬車
水上の舟は実在。陸を走るには台車が必要で、かぼちゃはほぼカバー
第3の壁:馬が、馬車を食べる
馬車を引くのは馬です。
原作では、ネズミが魔法で6頭の馬に変えられています。
ここで、料理人として気になることがあります。
馬って、かぼちゃを食べるのでは?
調べてみると、食べます。
馬にとってかぼちゃは、量に気をつければ安全なおやつで、喜んで食べる馬も多いそうです。
つまり、馬車をつないだ瞬間、目の前に巨大なおやつがある状態。
しかも、ながえ(馬とつなぐ棒)でつながっているので、馬が振り返れば、すぐかじれる距離です。
お城に向かって走るどころか、その場で食べ始めてもおかしくありません。
さらに言えば、原作で馬になったのはネズミです。
ネズミにとっても、かぼちゃはごちそう。
12時を過ぎてネズミに戻った瞬間、馬車だったかぼちゃを、今度はネズミたちがかじり始めるはずです。
魔法で馬にされたネズミ、御者にされた大ネズミ、従者にされたトカゲ。
12時を過ぎると、全員が元に戻って、目の前にはくり抜かれたかぼちゃがひとつ。
どう考えても、その夜いちばん得をしたのはネズミたちです。
馬に食べられないルート
馬とかぼちゃを一緒にしておく
馬はかぼちゃが好き。つないだ瞬間におやつになる
第4の壁:真夜中の期限と、においの問題
妖精の魔法の期限は、真夜中の12時。
では、現実のくり抜いたかぼちゃの期限はどれくらいでしょうか。
切っていない丸ごとのかぼちゃは、状態がよければ何週間も日持ちします。
ところが、くり抜いて中身を空気にさらすと、話は別です。
ハロウィンのジャック・オー・ランタンは、彫ってからだいたい1週間前後で、しわしわになったり、カビが生えたりし始めると言われています。
切り口から水分が抜け、そこにカビや細菌がつくからです。
においを止めると、食べられなくなる
傷んだかぼちゃは、においも出ますし、小バエも寄ってきます。
舞踏会に乗りつける馬車としては、かなり厳しい。
飾り用のジャック・オー・ランタンを長持ちさせる方法として、カビを防ぐ薬剤を吹きかけたり、切り口にワセリンなどをぬったりする方法が紹介されています。
ところが、こうした処理をしたかぼちゃは、もう食べ物としては扱えません。
馬にとっても同じで、ロウなどがついたかぼちゃは与えないように、とされています。
つまり、日持ちさせれば食べられない。
食べられるようにすれば、すぐ傷む。
においと期限と食べられること、全部を同時に満たすことはできません。
暖かい部屋でくり抜いたかぼちゃを放っておくと、数日で内側が白いカビでふわふわになり、皮はしぼんで、形がゆがんできます。
舞踏会の帰り道、12時を待たずに、馬車のほうが先にしぼみ始めます。
採用
期限とにおいルート
くり抜いたかぼちゃを馬車として保つ
もつのは1週間前後。においを防ぐ処理をすると食べられなくなる
第5の壁:巨大かぼちゃは、おいしいのか
最後に、料理人としていちばん気になるところ。
巨大かぼちゃは食べられるのか。
答えは「食べられなくはないけれど、おいしくはない」です。
巨大かぼちゃは、重さの最大94%ほどが水だと言われ、味は水っぽく、料理向きではありません。
面白いのは、巨大かぼちゃが、日本のスーパーでよく見る、ほくほくの栗かぼちゃと同じ西洋かぼちゃの仲間だということ。
同じ仲間なのに、片方はほくほく、片方は水っぽい。
違いは、何を目指して育てたかです。
栗かぼちゃはでんぷんと甘みを、巨大かぼちゃはひたすら重さを目指して、何世代も選び抜かれてきました。
かぼちゃの名前の由来は「南瓜」「西瓜」「胡瓜」の当て字の記事でも紹介しています。
大きく、重くするなら、水をたくさん抱えこむのがいちばんの近道。
その結果、味が薄まってしまうわけです。
かぼちゃを選ぶときは、同じ大きさなら重いものを。
ただし普通サイズのかぼちゃの場合、重さは水分より「中身の詰まり具合」の目安です。
ヘタが乾いてコルクのようになっているものは、しっかり熟して甘みがのっています。
食べるルート
馬車にした巨大かぼちゃを、あとで料理する
最大94%ほどが水。食べられるが、おいしくはない
番外検証:妖精がくり抜いた中身で、スープは何人分作れたか
料理人として、どうしても許せないことがあります。
妖精がくり抜いた中身です。
原作では、その後どうなったか一切書かれていません。
世界記録の1,278.8kgのかぼちゃで計算してみます。
皮の厚みや種の量はかぼちゃによって違うので、ここではざっくり、重さの半分の約600kgを中身としてくり抜いたと仮定します。
かぼちゃのポタージュ1人前に、かぼちゃを100g使うとすると、600kg ÷ 100g = 約6,000人分。
舞踏会の招待客全員に、おかわりつきでスープを出せる量です。
妖精は、ドレスより先に、まずスープ鍋を出すべきでした。
ただし第5の壁のとおり、巨大かぼちゃは水っぽいので、普通のかぼちゃのつもりで作るとスープが薄くなります。
煮詰めて水分を飛ばし、栗かぼちゃを足して味を補う必要がありそうです。
巨大かぼちゃの種は、記録を持つ有名なかぼちゃのものだと、1粒で数万円以上の値がつくこともあるそうです。
スープの材料費として見ると、たぶん世界一高いポタージュになります。
本気の理論レシピ:料理人が作る「かぼちゃの馬車」
人が乗れる馬車は、骨組みとカバーの世界でした。
そこで料理人としては、テーブルの上で作れる、食べられるかぼちゃの馬車を設計します。
かぼちゃを丸ごと1個、器にしたグラタンです。
| パーツ | 作り方の考え方 | ねらい |
|---|---|---|
| かぼちゃ | 栗かぼちゃを丸ごと1個。上を帽子のように切り、種とわたを取る | 器と中身を兼ねる |
| 下ゆで | 丸ごと蒸すか電子レンジで、竹串がすっと通る手前まで加熱 | 器が崩れないぎりぎりの柔らかさ |
| 中身 | くり抜いた果肉の一部を、玉ねぎ、ベーコン、ホワイトソースと合わせる | 妖精が捨てた中身も、全部使う |
| 焼き | 中身を戻してチーズをのせ、オーブンで焼き色をつける | 外側の皮は焼いてもかたちを保つ |
| 仕上げ | 皮に切りこみで窓の模様、パプリカやズッキーニの輪切りで車輪を飾る | 見た目を馬車に寄せる |
ポイントは下ゆでの加減です。
柔らかくしすぎると、器が自分の重さで崩れます。
皮の内側を1cmほど残してくり抜くと、オーブンで焼いても形がもちます。
残った果肉は、ポタージュや煮物に。
かぼちゃの煮物の定番「いとこ煮」の名前の由来は、「いとこ煮」はなぜ「いとこ」なのかで書いています。
メニュー名は「真夜中12時までのかぼちゃグラタン」。
ラストオーダーは23時30分。
ハロウィンの時期限定で、1台をテーブルで取り分けるパーティー用に。
お客さんが帰るときに、ネズミの形のクッキーをおみやげに渡します。
最終判定
| ルート | 判定 | ひとこと |
|---|---|---|
| 大きさ(人が乗れるかぼちゃ) | 採用 | 世界記録1,278.8kg。大人が入れるサイズは実在 |
| 馬車にする | 一部採用 | 水上の舟は実在。陸を走るには台車が必要 |
| 馬に食べられない | 没 | 馬はかぼちゃが好き |
| 期限とにおい | 一部採用 | もつのは1週間前後。防ぐと食べられなくなる |
| あとで食べる | 没 | 最大94%ほどが水。おいしくはない |
| くり抜いた中身でスープ(番外) | ― | ざっくり約6,000人分 |
1697年のペロー版から300年以上たっても、かぼちゃの馬車はシンデレラの代名詞のまま。
ハロウィンにかぼちゃを飾る習慣と重なって、秋になるとかぼちゃの馬車のお菓子や飾りがあちこちに並びます。
採用
総合判定
シンデレラのかぼちゃの馬車
乗れる大きさのかぼちゃはある。でも走らせるには台車が必要で、馬に食べられ、1週間で傷む
厨房で使える学び
1. 切った野菜は、切り口から傷む
丸ごとなら長持ちするかぼちゃも、切った瞬間から水分が抜け、カビが入りやすくなります。
切ったかぼちゃは種とわたを取って、ラップでぴったり包んで冷蔵が基本です。
2. 「大きい=おいしい」ではない
野菜は、大きく育てるほど水っぽくなりやすいもの。
仕入れでは見た目の大きさより、重さと詰まり具合を見ることが大切です。
3. 器にするなら、残す厚みが勝負
かぼちゃやパンを器にする料理は、内側をどれだけ残すかで崩れやすさが決まります。
中身を取りすぎない、加熱しすぎない。
器の料理全般に使える考え方です。
かぼちゃの硬い皮を切るときは、まな板の上でかぼちゃがぐらつかないよう、ぬれぶきんを敷くか、切り口を下にして安定させてから包丁を入れましょう。
電子レンジで1〜2分温めると皮が少し柔らかくなり、切りやすくなります。
まとめ
かぼちゃの馬車は、半分は現実にできました。
人が乗れるかぼちゃは育てられるし、くり抜いて湖をこぐことだってできる。
でも、道を走る馬車にするには、結局は台車と骨組みが必要です。
そして馬はかぼちゃが好きで、くり抜いたかぼちゃは1週間で傷む。
そう考えると、妖精の魔法が12時で切れたのは、むしろ親切だったのかもしれません。
12時を過ぎても馬車のままだったら、翌朝には、ネズミたちにかじられて、しぼんだかぼちゃが道ばたに転がっていたはずですから。



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