【命名の謎】「べったら漬け」はなぜ「べったら」なのか——「浅漬け」と呼ばれた麹漬けの大根が、市の名前になった話

料理と言語

べったら漬けは、もともと「浅漬け」の名前で売られていた——そう伝えられています。

江戸時代中期、日本橋の神社の市で、農民が米麹(こめこうじ)で漬けた大根をそう呼んで売り始めたのが最初とされます。

「べったら」の由来は、麹が大根にべたつく様子からとする説が有力ですが、決定的な記録はありません。

では、いつ、どんな流れで「べったら」の名前が定着したのでしょうか。

恵比寿講の前夜、神社の前に開かれた市

10月20日は「恵比寿講(えびすこう)」と呼ばれ、商人たちが商売繁盛の神である恵比寿を祝う日でした。

前日の19日には、日本橋本町の宝田恵比寿神社の前に露天商が集まり、魚や野菜、神棚などを売っていたといいます。

これが今の「べったら市」の起源だと言われています。もともとは祭りの準備品を売る市で、漬物が主役ではなかったわけです。

そこで売られた麹漬けの大根が評判を呼び、やがて市のほうが漬物の名前で呼ばれるようになりました。

市の名前が「べったら市」に定着したのは、明治のころからとされています。

🍡 豆知識

べったら市は現在も毎年10月19日・20日に開かれ、宝田恵比寿神社を中心に堀留町や大伝馬町まで約400〜500軒の露店が並びます。そのうち、べったら漬けを売る露店は約20店舗とされます。

「べったら」は何がべったりなのか——三つの説

名前の由来には、いくつかの説が伝わっています。

一つめは、漬けた大根の表面に漬け床の米麹がベタベタとついていたから、という説です。

二つめは、売り子が「べったらだ、べったらだ」と囃(はや)しながら、客の着物の袖に麹をつけようとして売ったという説です。

三つめは、売り歩く人の足元がべたべたしていたから、という説もあります。

三つとも共通するのは「べたつき」という触感です。決め手になる記録は見当たらず、どれが正しいと言い切ることはできません。

💬 言語的視点

「べったり」「べたべた」のように、ベタ系の音は粘りつく感触を連想させる擬態語(様子を音で表した言葉)の仲間です。「べったら」もその響きに近いですが、語尾の「ら」の成り立ちを示す記録はなく、推測にとどまります。

「えべす」が訛って「べったら」になった?

もう一つ、恵比寿様の例祭で売られていたため「えべす」から「べったら」に訛(なま)った、という説も紹介されることがあります。

ただ、音が変わっていく途中の記録は見当たらず、前の三つに比べると根拠が薄い、語呂合わせの俗説に近い話です。

恵比寿との結びつきは、名前の由来ではなく「どこで売られたか」を示す背景として受け取るのが確かでしょう。

麹の甘さと「べたつき」の正体

べったら漬けは、白首大根を塩水で2日ほど下漬け(塩で水分を抜く最初の工程)し、麹・砂糖・みりん・昆布などと合わせて5〜7日ほど本漬けにするのが一般的とされます。

米麹にはでんぷんを糖に変える酵素が含まれていて、大根が甘くなるのもこの働きによります。

漬け上がった大根の表面には麹が残り、それが名前の候補の一つになった「べたつき」の正体です。

📝 まとめ

「べったら」の由来は、麹がべたつく見た目や売り方の様子にあるとする説が有力ですが、決定的な記録はありません。もとは恵比寿講の市で売られた麹漬けの大根が評判となり、漬物の名前が市の名前にもなったのです。

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